
時代に波にもまれながらも逞しく生きた夫婦の話。
初演は1993年。再演、再々演を経て、今回は演出、主演を新たにしての公演です。
3時間超の長いお芝居ですが、最後まで集中して観られました。
地人会第105回公演
「朝焼けのマンハッタン」
作 斎藤憐
演 出 佐藤信
出 演
稲垣愛子 ・・・・・・・・・・・・・ 竹下景子
稲垣幸次郎 ・・・・・・・・・・・ 夏八木勲
田口光子(愛子の姉) ・・・ 大崎由利子
田口恵(光子の娘) ・・・・・ 石橋けい
ヘンリー平井 ・・・・・・・・・・ 脇田康弘
平井信代(ヘンリーの母)・・ 寺田路恵
佐山(放浪の演出家) ・・・ 高田恵篤
陳(中国人の家主) ・・・・・ 松熊信義
鶴橋(通信社の記者) ・・・ 森一
会 場 紀伊國屋サザンシアター (2007年7月7日〜19日)
<以下、ネタバレあります。ご注意を!>
ものがたり
1936年9月。ニューヨーク・マンハッタンのアパートの最上階。
恵まれた日本の家を捨て、自由の国アメリカへ飛び込んだ愛子と、やっと頭角を表してきた画家・幸次郎がここに住んでいる。頭角を表したといってもまだまだ絵は売れず、愛子の内職で生活している。管理人の陳さんは心優しい中国人だ。外交官夫人でワシントン在住の愛子の姉・光子は、妹夫婦の影響を受け日本に帰らず絵の勉強をここニューヨークでするのだ、と言いはる娘の恵に手を焼いている。
5年後の1941年。突然、太平洋戦争が勃発。この部屋に慌ただしく出入りする人々――
世界中を放浪して歩く演出家・佐山もこの部屋にふと現れては消え、通信社の記者・鵜橋は、刻々と変わる世界の状況を運んでくる。近くのレストランでコックをしているヘンリーもその一人。ヘンリーの母・信代は写真結婚でアメリカに渡ってきた移民なのだ。さまざまな人が出入りするこの部屋は、戦争中のニューヨークでとり残されそうになる日本人たちのオアシスのような場所だった。彼らはそこで夢や希望を語り励まし合うのだが、やがて終戦。
それぞれのたどった道は・・・・・・
(以上、パンフから)
時代的に渡米自体が難しかった頃の話です。
戦時体制に入っていく日本をマンハッタンの地で眺めていた人たち。マルクスに憧れたり、自由主義のアメリカに魅せられたり、それが“先端”だったわけです。
愛子が語る内容も、帝国主義を非難することと、米国民主主義の理念を肯定することが並列されていて違和感が否めません。しかし、当時のインテリゲンチャの言だと考えれば、それが自然だったのかもしれません。
出自が華族だったからか、戦中も米国政府から激しい弾圧を受けていなかったようです。
強制収用など人権無視の扱いを受けた人たちとは少し違います。
この芝居では、そういう悲劇よりも社会と個々人の関わりを見せたかったのでしょう。
信念と夫婦愛は、モンロー主義、戦争、レッドパージ、など等、苦境にあっても本質的には揺るがないものだと。
いつの時代でも、家族が一番大切だとうったえてきます。
なんとなく、懐かしい感じのお芝居でした。